令和5年度末に実施した常滑市職員向けの「業務連絡に関するアンケート」の集計から、「回答者の約3割が業務に個人携帯の番号を使用した経験がある」ことが明らかとなりました。この結果を受け、常滑市では個人携帯の番号に代わる連絡手段を検討するため、050電話アプリSUBLINE(サブライン)の実証実験(PoC)を実施しました。
今回のPoCの終了にあたり、自治体のDXや働き方等、常滑市企画課の秋葉様と石川様にお話を伺いました。
Q. 常滑市について簡単にご紹介ください。
令和6年度に市制70周年を迎えた常滑市は、愛知県知多半島の西海岸に位置する、人口58,712人(令和6年11月末時点)のまちです。
瀬戸・信楽・越前・丹波・備前と並び、日本六古窯の中で最も古く最大の規模とされている常滑は、「常滑焼」の産地として知られています。窯業は現在も主産業となっています。そのほか、繊維、工業、機械金属工業や醸造業など、多様な産業が展開されています。
農業では、大規模な耕地整備が進む中で、野菜や果物の栽培が盛んに行われています。特にイチジクは地域を代表する作物として注目されています。
漁業では、魚の宝庫といわれる伊勢湾の豊かな恵みを活かし、多種類の魚が水揚げされています。また、伊勢湾で養殖されている海苔は、ふるさと納税の返礼品として高い人気を誇っています。
さらに、市内には中部国際空港(セントレア)があり、「中部地方の空の玄関口」として重要な役割を果たしています。
Q. 今年度は市制70周年ということで、様々な催しがあったと思います。簡単にご紹介ください。
市制70周年を記念し、令和6年度は「市民の『わ』でつくる魅力創造都市(とこなめし)」をキャッチフレーズに、地域の絆を深め、将来のまちづくりや地域の発展に繋がる事業を展開しました。
いくつかの事業をご紹介しますと、常滑市内のカフェ・ギャラリーやゲストハウス等にて国内外のアーティストとの交流を目的とした「TOUCH!TOKONAME」や市内の多くの山車が一堂に集結する「第四回 とこなめ山車まつり」、今年新しく建設された給食センターで人気の献立を提供する「学校給食レストラン」を実施しました。
Q. 「常滑市デジタル化推進プラン」について簡単にご紹介ください。
令和3年3月に掲げた「とこなめデジタル化推進宣言」をもとに、デジタル技術を活用して持続可能で便利な市民サービスの実現を目指すとともに、効率的な行政運営を進めるための指針として、令和4年3月に「常滑市デジタル化推進プラン」を策定しました。
Q. 民間企業では働き方について、様々な取り組みが行われていますが、常滑市としての取り組みがあれば教えてください。
デジタル化推進プランに基づき、業務に応じたデジタルツールの導入が進んでいます。具体的な取り組みとしては、AI-OCR、RPA(業務自動化ツール)やAI自動文字起こしのボイスレコーダーを使用することで、業務の効率化を図っています。特にAI自動文字起こしのボイスレコーダーは、会議に集中できることはもちろん、議事録作成の負担が軽減できているので、非常に助かっています。
Q. 職員の働き方は、今後どのように変わっていくと想像しますか?また、どのように変わっていくべきとお考えでしょうか?
現在、自治体の規模に対して各職員には多種多様な業務が求められていますが、これまでは主にマンパワーで対応してきました。しかし、今後は行政も含めた労働人口の減少が予想されているため、業務の効率化や既存運用の根本的な見直しが必要だと感じています。また、「誰かがやってくれる」「あの人に任せておけばいい」という考え方ではなく、職員一人ひとりが問題意識を持ち、自ら行動する姿勢が不可欠だと考えています。
Q. 新たな働き方を推進する上で、DX(IT)ツールは必要不可欠なものだと思います。具体的に何か導入されているものはありますか?
先ほどお話ししたAI-OCR、RPA、AI自動文字起こしツールや庁内グループチャットツールを導入することで業務の効率化を図っています。特にグループチャットツールは提携している他の自治体ともつながることができるため、DXを先駆的に推進している自治体職員との意見交換に役立てています。
Q. コロナ禍を経て、働き方に対する意識等は変わってきたと感じますか?
リモート会議が浸透したと感じています。以前は「自治体での利用は難しいのではないか」という先入観や抵抗感が見られましたが、職員の意識は徐々に変化しています。現在では、「即座に会議を設けることができ、限られた時間を有効活用できる良い手段だ」という声も聞かれるようになりました。
また、働き方以外の観点では、市民が来庁せずに手続きできる「行かない窓口」の導入が進んでいます。当市でも、市民サービス向上の一環として導入を検討しています。
Q. これまで電話に関して、課題感はお持ちでしたか?
外部の方とやり取りの多い部署や、打ち合わせや出張が多く固定電話の対応が難しい担当者がいるため、業務用携帯の必要性を感じていました。しかし、業務用携帯の支給にはコスト(予算)面の問題や、個人携帯と業務用携帯の2台持ちによる煩わしさといった課題がありました。
さらに、職員へのアンケート調査により、業務で個人携帯の番号を使用している職員が一定数いることが明らかとなりました。その結果、業務時間外に電話がかかってくることや、個人携帯の番号が外部に公開されるといった状況が生じ、業務とプライベートの切り分けが難しいという課題が浮き彫りになっています。
Q. SUBLINE(サブライン)のような050アプリはご存じでしたか?
IP電話について知ったのは最近のことです。以前、やり取りした事業者の方が050番号を使用しているのを見たことがある程度でした。SUBLINEのように、スマートフォンにアプリをインストールするだけで業務用の050番号を利用できるサービスについては、これまで知りませんでした。
Q. 今回のPoCを振り返ってみて、いかがでしたか?
当市が抱える業務連絡の課題に対する解決策は業務用携帯の支給だと考えておりました。しかし、今回のPoCを通して、SUBLINEのような050電話ツールを活用するという新たな発想を得ることができました。
また、自治体の予算は税金によって支えられているため、新しいサービスの導入には慎重を期す必要があります。そのような背景の中で、実際にツールを使用し、具体的なメリットとデメリットを把握できたことは非常に意義深いものでした。
なお、先ほどお伝えしたグループチャットツールにてSUBLINE番号を公開したところ、他の自治体の方から「IP電話を導入されたのですか?」と声をかけていただきました。このことから、他の自治体においても電話ツールに対する関心が高いことを実感しました。
Q. 他の自治体の方にも効果的だと思われますか?
はい、効果的だと思います。先ほどもお伝えした通り、自治体の予算の原資は税金であるため、新規業務の導入には高いハードルがあります。その中で、PoCを活用して新しいサービスの効果を検証することは、導入を検討するうえで非常に有効な手段であると考えます。
また、多くの自治体が業務連絡に関する課題を抱えていると考えられるため、同様にPoCを通じて電話ツールのメリットとデメリットを具体的に理解できると考えています。特に、既に業務用の携帯電話を利用している職員が参加することで、SUBLINEと2台持ちの運用の差を明確に実感できると思います。
Q. PoCにご参加いただいた方から何かコメントがありましたらお聞かせください。
PoCに参加した13名を対象にアンケートを実施した結果、約6割が「2台持ち」より「IP電話」が業務利用に適していると回答しました。その理由として、「土日や夜間の対応時間や転送設定が細かくできる」「自動録音で通話内容を記録できる」「2台持ちの必要がない」「個人の携帯番号を知られず、業務用とプライベートを分けて使用できる」といった点が挙げられました。
特に、「曜日ごとに応答時間を設定することで、業務とプライベートを切り分けられる点」が職員から高く評価されています。私自身も、SUBLINEを利用することで出張先での突発的な電話対応が可能となり、2台持ちの負担を感じることなく、場所を問わず利用できる利便性を実感しました。
※以下参考画像はPoC参加者を対象に行ったアンケートより一部抜粋
Q. SUBLINE(サブライン)を利用することで、市民の方へのサービスレベルに変化はあると思われますか?
市民目線では、050番号を把握することで折り返しの待ち時間が不要となり、対応品質の向上が期待されます。また、電話を受ける職員にとっても、取次ぎ業務が軽減されることで、本来の業務に集中できるようになり、結果として業務全体の効率化に寄与すると考えます。
さらに、各職員に番号が付与された場合、庁内の内線電話の数を削減することで全体的な運用の効率化が見込まれます。
Q. 電話について、多くの自治体の方が同じような課題をお持ちかと思います。同じようなお立場の方にメッセージを頂戴できますでしょうか。
当市では、本PoCを通じて、業務連絡に関する課題の解決に取り組むことができました。来年度にはSUBLINE導入に向けた予算計上が可能となり、新たな取り組みとして業務改善の一歩を踏み出せそうです。
日々の業務をこなしながら課題解決にあたることには苦労を伴いますし、一つの課題を解決しただけで劇的な改善が見られることは少ないかもしれません。しかし、少しずつ着実に取り組むことで、市民・職員双方にとってより良い行政の実現に繋がると信じています。
業務改善に取り組まれている他の自治体職員の皆様の存在は、当市にとっても大きな励みとなっています。ともにより良い行政を目指して、これからも頑張りましょう。
インタビューへのご協力ありがとうございました。
本PoCがさらなる業務改善や市民サービスの向上に繋がることを期待しております。
引き続き貴市のお取組みをサポートさせていただきますので、今後ともよろしくお願いいたします。
愛知県常滑市役所 ご担当者様
ご協力ありがとうございました